絵本作家 ジョン・クラッセン さんインタビュー


■本シリーズが生まれた背景は?

くまがぼうしをかぶっている絵を描いたら、そのくまは単に大きいというだけで、こわそうに見えたんです。でも同時に、ぼうしをかぶっていることで、とても幸せそうに見えました。
ぼうしってシンプルですてきですよね。だから、何かトラブルが起きそうなストーリーではなく、なんでもないぼうしを描こうと思いました。


■くま、さかな、かめ、それぞれの主人公を選んだ背景は?

1冊目のくまは、大きさで選びました。くまは、礼儀正しくて、穏やかな性格かもしれないのに、ただ大きいというだけで、何か起こるかも、と思わせてくれますよね。
2冊目は、1冊目とはまったく違うものにしたかったんです。暗い背景の中、何か光るものがある、深海だな、と思いました。さかなが、少なくともぼくにとっては、抽象的なモチーフであることもよかった。ちいさいさかなと大きいさかな、種類は何だってかまいませんでした。
最初の2冊は対になる物語で、3冊目は少し難しかったけれど、控えめで、ゆっくりで、穏やかな登場人物にしようと決めました。同時に、ぼうしがあんまり似合わないものにしよう、と。ほんのちいさな違いだけで、まったく同じふたりにしたかったので、かめなら、こうらの模様でそれができると思いました。


■前2作は残酷とも受け取れる終わり方でしたが、その意図は?

どちらの本も、ああしようと思ってはじめたわけじゃないんです。でも、物語が行くべき方向へついていったら、ちょっとこわいラストに。でもそれは、正しかったと思っています。
ぼくは、まちがいを犯したり、いいやつなのかわからない登場人物が出てくる物語が好きなんです。また、絵で本当のことを見せて、登場人物のセリフではうそをつくような物語もね。子どもが大人と本を読んでいるときって、たいてい大人は文字を読んで、子どもは絵を見ているでしょう。そういうとき、大人が惑わされている間に、子どもは本当のことがわかっているように感じます。


■最新作のラストは前2作とは違う印象を受けました。何か理由はありますか?

3冊目は形になるまで時間がかかりました。前の2冊は鏡に映るように対になる物語だったけれど、3冊目は違うものにしたかった。でも、どうしたらいいのか長い間わからなかったんです。たとえばみんな死んでしまって、誰もぼうしを手に入れられない物語にしようと、そのアイデアでいろんなバージョンをつくりました。でも、違う。それでは自分がつくりたい物語にはならないとわかったんです。
そこで、親友のふたりがいて、どちらもそこそこいいやつ、という前提でもう一度考え直しました。これでやっと、いまのラストに辿り着けたんです。これは驚きでしたね。ぼうしシリーズは、3冊とも同じ世界にあるように思えるけれど、3冊目がいちばん気に入っています。

■読者へメッセージをお願いします。

この絵本を日本の読者に届けられることを、誇りに思います。日本には好きな絵本がたくさんありますから。ぼうしシリーズの中のどれかでも好きになってくれたら、本当に光栄です。この絵本と、かめたちを気に入ってくれることを、こころから願っています。


<Profile・プロフィール> Jon Klassen ジョン・クラッセン

 1981年カナダ・オンタリオ州ナイアガラフォール生まれ。はじめて文と絵を手がけた絵本『どこいったん(I WANT MY HAT BACK)』は、2011年ニューヨーク・タイムズベストセラー、ドクター・スース賞オナー賞などを受賞。第二作『ちがうねん(THIS IS NOT MY HAT)』は2013年コールデコット賞(アメリカ)、2014年ケイト・グリーナウェイ賞(イギリス)をダブル受賞し、絵本史上初の快挙を成し遂げた。



訳者 長谷川義史さんインタビュー


■本シリーズではじめて翻訳を手がけられました。どんなご経験でしたか?

言葉をさがす楽しさと大変さ、余計な言葉を入れない大切さを教えてくれました。


■本シリーズについて、おなじ絵本作家として何を思いますか?

言葉少なな文章と、多くを語る絵。まさに絵本!と思いました。


■読者へのメッセージをお願いします。

動物と魚と帽子で、それぞれ読者に考えさせてくれる深いシリーズです。ぜひぜひ最後の最後のページまで絵を見てください。読んでください。


<Profile・プロフィール> 長谷川義史 はせがわよしふみ

 1961年大阪府藤井寺市生まれ。『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)、『おへそのあな』(BL出版)、『てんごくのおとうちゃん』(講談社)、「いいから いいから」シリーズ(絵本館)、『うん このあかちゃん おとうちゃんの出産絵日記』(クレヨンハウス)など著書多数。ユーモラスでおおらかな独自の世界を生み出す一方、平和をテーマにした絵本で、新たな境地を切り拓いている。