【講演会レポート】あずみ虫さん(絵本作家、美術家)/子どもの本の学校 35期
1991年5月よりスタートした、クレヨンハウスの「子どもの本の学校」連続講座は、2025年で35期を迎えました。子どもの本の専門店として、作家と読者が出会う場所をつくりたいとの思いが出発点。“子ども”をキーワードに、子どもについて、子どもの本について、子どもをとりまく大人の世界について、ご一緒に楽しみながら考えていきたいと思います。
2025年12月の講師は、あずみ虫さん
あずみ虫(あずみむし)さんは……
安西水丸さん(あんざい・みずまる、1942-2014)さんに師事し、「あずみ虫」の名前もそのときに生まれる。アルミ板を切ってアクリル絵の具で着彩する技法で絵を描き、しばしば[クーヨン]の特集イラストも手がけていた。2018年からアラスカに通い、現地の自然や野生動物、ひとびとの暮らしを体験。現在は一年の半分ほどをアラスカで過ごしている。最近の絵本に『ホッキョクグマのプック』『アザラシのアニュー』(ともに童心社)、『よかったなあ』(まど・みちお/詩 理論社)、『アラスカのむかしばなし よあけのはこ』(ボブ・サム/語り、谷川俊太郎/訳 あすなろ書房)。
講演会タイトル「アラスカ先住民と野生動物たち」」
アラスカの大自然、動物、ひとびとを愛した写真家の星野道夫(ほしの・みちお、1952-96)さんの著書でアラスカに惹かれ、2018年からアラスカに通うようになった、あずみ虫さん。アラスカ南東部・シトカに拠点を構え、現在は一年の半分を毎年アラスカで過ごしています。
「2018年に初めて3ヶ月の旅をしたときに、広大な大地、オーロラ、野生のカリブー(トナカイの現地での呼び方)やヘラジカ、ホッキョクグマなどを実際に目にして、アラスカのとりこになったんです。それで毎年通うようになり、そこに暮らすひとたちとの出会いもあって、ついにはシトカに拠点を持つようになりました。
もともと野生動物の絵本を描きたかったこともあり、物語でありながら、その生態を伝えられる絵本を描くことを自分のテーマにして、動物たちを観察しながら絵本をつくるようになりました。そうして生まれたのが、『ホッキョクグマのプック』(童心社)。鼻を高く上げて周囲の匂いを嗅ぎ、危険や食べものの情報を得る動作や、子グマが母グマのしぐさを真似るようすなど、ホッキョクグマの自然な姿や生態を知ることができました」(あずみ虫さん)
あずみ虫さんが拠点にしているシトカには、アラスカ先住民・クリンギット族の語り部である、ボブ・サムさんが暮らしています。
「ボブさんは星野道夫さんの著書に登場していて、彼に興味をもち、シトカを訪ねました。その出会いがきっかけで、ボブさんが語ってくれたクリンギット族の昔話を絵本にした『アラスカのむかしばなし よあけのはこ』(あすなろ書房)をつくることができました。アラスカ先住民族は、かつての同化政策(米国がアラスカを統治するようになった際、独自のことばや文化などを英語や白人文化に改変させたこと)で、現在の日常会話は英語です。けれども、彼らは自分たちの文化への誇りをいまも失っておらず、子どもたちに先住民の言語や文化を伝える尽力をしています。ボブさんも『次世代に昔話を伝えることは、とても大切』と言って、クリンギット族に古くから伝わるワタリガラスの物語を託してくれました。クリンギット族の美しい伝統美術や、ひとと野生動物が親密な文化を、この絵本を通じて日本の子どもたちにも伝えることができたらうれしいです」(あずみ虫さん)
日本にいてもアラスカに近い環境で過ごしたいと考えたあずみ虫さんは、2025年から日本での拠点を北海道・羅臼に構えました。
「アラスカと北海道は生態系が似ていて、シカ、フクロウ、クマ、クジラ、シャチ、トド、アザラシ、ワシなど、多くの動物を見ることができます。いつも自分がたのしく観察している動物や自然を絵本に描けるというのは、とてもうれしくてしあわせなことだと思います」(あずみ虫さん)
講演会中に、アラスカに住むボブ・サムさんに電話で話してもらう試みも! ぶじにつながり、会場からの質問にもお答えいただきました(あずみ虫さんとボブさんは英語で話し、その内容をあずみ虫さんが日本語に訳してくださいました)。
クリンギット族は、母親から代々受け継ぐ動物のクラン(家系のようなもの)を持っていて、動物が出てくる物語は、その動物のクランのひとが語ることができます。ボブさんは「ワタリガラス」のクランなので、ワタリガラスの出てくる昔話「よあけのはこ(Box of daylight)」を語れるというわけです。ボブさんは、数多くの昔話を持っていて、クリンギット族の長老から聞いたのだと言います。
左:アルミ版を描きたいものの形に切り抜き、それに着彩するという珍しい描き方をしている、あずみ虫さん。会場では、ワタリガラスの形を切り抜くところを実際に見せてくれました。
右:切り抜いたアルミ版のままのワタリガラスと、着彩済みのシロクマ(今回のサインカード)。アルミ版をアクリル絵の具で着彩し、別に描いた背景と合わせることで、いつも絵本で見ている絵ができあがります。
講演で紹介された本の一部をご紹介
特別サイン会&限定サインカードは、参加者だけの特典です
講演会終了後にはサイン会を開催。間近でお話ししながら直筆サインを入れていただける貴重な機会です!
オンライン視聴の方は、対象書籍ご購入で、描き下ろしの特別サインカードをプレゼント!
あずみ虫さんの講演会に参加されたお客さまの声をご紹介!
◆動物の話、絵本の話、環境の話、気候変動の話、クリンギットの人々の話、アラスカに電話を繋いでボブさん登場! から絵の実演まで!豪華で楽しみがギューッと詰まった時間でした。今思い出しても夢のよう……思いがけず星野道夫さんの話を聴くこともできてよかったです。(長野県・女性)
◆アラスカの自然にふれ、生活する中で描かれた絵本の世界、息遣いが聞こえてくるようで、ストーリーも興味深く拝見しています。作品が生み出された背景がうかがえて良かったです。アルミを切って描くという独特の技法を知り、改めて絵本を見ると味わい深いものがありました。(東京都・男性)
◆オンラインでしたが、参加できてとっても良かったです! とても楽しそうにお話されているあずみ虫さんをみて私達も楽しくて笑ってしまいました。「見てみたいと思ったからアラスカに行った」とおっしゃるように、好きという気持ちはとっても大きなエネルギーなんだと再認識しました。好きという気持ち、大切にしたいです。熊が、歩いても歩いても餌がなく、市街地に出て殺された、というお話では、北海道に住む私達はどうやって熊との生活に折り合いをつけられるのか、考えさせられました。(北海道・女性)
[月刊クーヨン]26年3月号には、書ききれなかった講演内容を掲載!
クレヨンハウスの育児雑誌[月刊クーヨン]では、書ききれなかった講演内容を掲載しています。 あずみ虫さんの記事は、2026年3月号(2/3発売)に掲載!ぜひお読みくださいませ。
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この出会いが、一生を変えるような忘れられない大切な一冊との出会いになるかもしれません。
どこまでも自由な絵本の世界の魅力を、もっともっと知ることができる講演会イベントです。
ご参加を、お待ちしております!
※本ページに表示されている商品価格等は講演会開催時点のものです。
















