このまちのどこかに

雪の舞う大都会。バスの車窓に映る、もの思いに沈む子どもの横顔。
子どもはバスから降りて、知らないひとが行き交う騒々しい道路をひとりで行く。
路地や、魚屋や、公園を廻りながら、こころのなかでは　ここにはいない「誰か」に語りかける。

……裏通りを通るといいよ。
きみにぴったりの隠れ場所は、このクワの木の下。
温かい蒸気が吹き出るダクトの下で、昼寝ができる。
通りの先の魚屋さんは、おねだりしたら魚をくれる……。

この子は、行方不明になってしまった猫を探しながら、こころのなかで猫に語りかけているのだと、読者はゆっくりと気づかされる。
「かえりたいと おもったら、まっすぐに かえっておいで。」
心細さと、きっとだいじょうぶ、と信じる気持ち。
揺れ動く子どものこころを、街の景色と見事にリンクさせ、繊細に表現した一冊。
文字のない絵本『おはなをあげる』、『うみべのまちで』などで高い評価を得るシドニー・スミスさんが、文・絵ともに手がけた初めての作品。
2019年のニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞、2020年のエズラ・ジャック・キーツ賞などを受賞。