小黒三郎さんとは


かざって、ながめるだけではなく、子どもが手にしてあそべてこそ、子どものための人形。
子どもが手にとって語りかけ、自由にかざれて、しまうことまで、あそびになるのです。

小黒三郎さん 大学で油絵を学び、中学校での美術教師ののち、
盲学校・養護学校に勤務、おもちゃ製作をはじめる。
1983年にアトリエ「遊プラン」を設立。
製作のかたわら、個展や技術指導も行っている。
著書に『小黒三郎の組み木』(大月書店)ほか。

1枚の木板を、糸のこで切り出していきます。
やわらかで、美しいラインの組み木の人形は、
小黒さんの手技から生みだされた芸術品です。
収納時には、パズルのようにあそべるたのしさも。
やってみると、意外にむずかしいですよ。
「3月3日、5月5日はおとなのおまつりじゃありません。主人公は子どもたち。その子どもがさわりたいけれどさわれない、あそびたいけれどあそべない、というのはおかしい。目の前にかざってあるだけなんて、満足できないですよね。季節人形は一般的にはとても高価で、“さわってはいけないもの”ですが、ぼくは“堂々とさわってあそんでいいんだよ” という人形をつくりたかったんです」

じつは子ども時代、ひな人形でよくあそんでいたそう。
「姉が三人いましたので、おひなさまの段飾りがあった。ひとりでこっそりと、ひな人形であそんだことをおぼえています。元にもどすとき人形を反対に並べてしまったりして、怒られたこともありました(笑)」

組み木と出合ったのは、盲学校に勤務していた頃。
「ぼくはもともと絵の教師ですから、目の見えない子どもたちに絵を教えるということを、まったく考えていなかった。盲学校に移って“手は目である”ということに気づきました。子どもたちは、手でさわりながら勉強します。さわりながら形を知るので『触察』といいます」

その触察のためのおもちゃをつくりだして、おもちゃに対する認識がずいぶん変化したそうです。
「おもちゃが完成しすぎていたり、存在感が強すぎたりすると、子どもの想像力の出番がありません。そのおもちゃと“対話”できなくなってしまう。子どもとおもちゃとの対話って、ものすごく大事だと思っています。子どもが思わず話しかけたくなるような、素朴なおもちゃこそ、対話がはずむんです」

小黒さんの組み木人形はシンプルなのに、じつに表情豊かで、つい声をかけたくなります。
「わたしの組み木のひな人形や五月人形は、飾ってながめるだけでなく、いっぱいさわってあそんでもらいたい。できるだけ親しみを感じてもらえるように、表情も、あそぶ子に近い童顔にしています」
「組み木は、平面的にあそぶパズルと違って、バランスを考えながら、いろいろな組み方をたのしめる構成あそびなんです。あそびながら話しかけ、想像力を広げられるのが、組み木のおもしろさです」

親子で会話しながら、人形をしまう時間も大切、と小黒さん。 パズルのようにすべてがきちんとおさまったときは、達成感も味わえます。
「せっかくの白木がよごれてしまう、と気にされる方もいますが、逆に、手の脂分がオイル代わりにもなるので、しまう前に乾いたタオルでふいてもらうだけで、年々いい色に変化して、木の味わいがでてきますよ」
子どもたちへの愛情が込められた小黒さんの組み木の季節人形は、成長を見守り続け、生涯のともだちになります。

『おもちゃtown』2号/2005年・3号/2009年より、まとめ