
【講演会レポート】シドニー・スミスさん(絵本作家)/子どもの本の学校 34期

1991年5月よりスタートした、クレヨンハウスの「子どもの本の学校」連続講座は、2024年で34期を迎えました。
子どもの本の専門店として、作家と読者が出会う場所をつくりたいとの思いが出発点。
“子ども”をキーワードに、子どもについて、子どもの本について、子どもをとりまく大人の世界について、ご一緒に楽しみながら考えていきたいと思います。
2025年5月の講師は、シドニー・スミスさん
シドニー・スミス(Sydney Smith)さんは……
カナダのノバスコシア州出身・在住。2024年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞。『このまちのどこかに』(せなあいこ/訳 評論社)と『うみべのまちで』(ジョアン・シュウォーツ/文 いわじょうよしひと/訳 BL出版)はケイト・グリーナウェイ賞を、『ぼくは川のように話す』(ジョーダン・スコット/文、原田勝/訳 偕成社)と『ねえ、おぼえてる?』(原田勝/訳 偕成社)はボストングローブ・ホーンブック賞を受賞。文のない絵本『おはなをあげる』(ジョナルノ・ローソン/作 ポプラ社)ほか著書多数。最新作『あらしの島で』(ブライアン・フロッカ /文、原田勝/訳 偕成社)は25年7月末発売予定!(下部「講演で紹介された本の一部をご紹介」もご参照ください)
シドニー・スミスさん、『ねえ、おぼえてる?』で
第30回日本絵本賞翻訳絵本賞の受賞、おめでとうございます!
講演会をオンエアする直前の2025年5月16日に、『ねえ、おぼえてる?』(原田勝/訳 偕成社)が「第30回日本絵本賞文化賞」を受賞されたというニュースが飛び込んできました!
講演会タイトル「An Illustrator's journey.」
日本でも、手がけた絵本が刊行されるたびに話題になる、シドニー・スミスさん。多くの読者に愛される理由は、一冊ごとに物語に適した絵と見せ方をとことん考え抜いていることにあるようです。
「本をつくることは、一冊ごとに自分をつくり直す新しい機会、違う方法で自分を表現する機会です。『おはなをあげる』(ジョナルノ・ローソン/作 ポプラ社)では、読者にどのように絵を見せるかによって、ストーリーの理解やキャラクターへの共感が変わってくることに気づきました。絵本の構成を練り上げて、文を書いた詩人ジョナルノ・ローソンさんに見せたところ、文のない絵本にすることを決断してくれました。詩人として活躍する彼がそう考えてくれたことは、類を見ない判断だと思います。『うみべのまちで』(ジョアン・シュウォーツ/文 いわじょうよしひと/訳 BL出版)では、文と絵がどのように組み合わさると、もっと深く豊かなイメージを生み出せるかを追求しました。文の内容と絵の内容を意図的にずらすことによって、読者の想像力を引き出すようにしたのです。
自分で作絵の両方を手がけた『このまちのどこかに』(せなあいこ/訳 評論社)の目標は、文と絵の両方がないと語れない物語にすることでした。文を読むだけでは、実際に何が起こっているのか理解できない。絵を見るだけでは、物語の一部しか理解できない。でも、文と絵が一緒になることで、伝えたい物語がはっきりします。
『ぼくは川のように話す』(ジョーダン・スコット/文 原田勝/訳 偕成社)では、絵と文の関係性だけではなく、絵の具の使い方でも感情を表現しようとしました。それこそ川のように絵の具が混ざり、あるときは『美しくない絵』として、あるときは自然に『美しい絵』として描くことができました。同時に、今回は読者が『キャラクターを外側から見守る』のではなく、『キャラクターと一体化して内部から見る』ことができるように描きました。それにより、わたしたちはそれほどに違わない、この男の子の経験していることは普遍的なものだと読者に伝えたかった。それを伝えることが、わたしの役割だと思っています。わたし自身の経験を描いた『ねえ、おぼえてる?』(原田勝/訳 偕成社)では、わたしの記憶がわたしの頭の中でどんなふうに見えるのかを共有しようと試みました。誰もが記憶をもっています。しかしそれを誰かに見せることはできません。唯一それに近いのが、絵本を描くことだと言えます。この絵本では、離婚によって母とふたりで暮らすことになったできごとを描いています。伝えたかったのは、わたしたちはお互いを支え合っていたということです。わたしたちは一緒にいるから、どんな状況でも大丈夫だよ、と。
この思いは、わたしが絵本をつくるときに込めている思いと同じです。『大丈夫だよ』『きっとすべてうまくいく』と、わたしの本を読んでくれた読者に伝えられればと願っています。絵本をつくるなかでいちばんやりがいを感じるのは、とてもシンプルな媒体を通じて、つながりが生まれることだと思います。絵本とは、基本的には紙の束を折りたたんだもので、そこに色や線やことばが載っているだけです。それでも絵本には、世界中のひとびとを結びつける力がある。そして、絵本はまだ見ぬ場所や文化にひとびとを連れて行き、共通点を示してくれます。絵本はとてもシンプルな存在ですが、そんな『人間の本質』を内包しています。それをほかのひとと分かち合うことで、異なる国や文化のひとびと、孤独や分断を感じているひとびとをつなげることができると思っています」
シドニーさんの思いを胸に、ぜひ絵本を開いてみてください。一度読んだだけではわからないこと、気づかないこともあるかもしれませんが、シドニーさんの「読者はきっと理解できる」という信頼を感じながら、ご一緒に深く絵本を読んでいきましょう。

シドニーさんが講演中に飲んでいたのは、台湾の急須から注いだウーロン茶でした。「とてもおいしい」とのこと。見慣れた急須も、こうして見ると新鮮ですね。
講演で紹介された本の一部をご紹介
限定サインカードは、参加者だけの特典です

オンラインのみの開催でも、もちろん描き下ろしの特別サインカードを作成いただいています!
対象書籍のご購入で、もれなくおつけしております。
シドニー・スミスさんの講演会に参加されたお客さまの声をご紹介!
とても貴重なお話を沢山聞くことが出来て幸せな時間でした。(中略)シドニースミスさんのお話しされる目がキラキラしていて、純粋な心をお持ちの方だと思いました。本当に あっという間に時間が経ちました。(山口県/女性)
お話をお聞きしていると、人間もふくめて、動物さんも、鳥さん、虫さんたちも、地球上の生き物はみーんな、つながっているように感じました。(女性・長野)
絵本を制作される過程のお話もたいへん興味深く伺いました。…日本の作家さんからは聞いたことのない、あまり言語化されないように感じていた部分(絵だけで構成する沈黙のページの効果など)のお話が特に。(島根県/女性)
シドニー・スミスさんのお話、面白かったです。作品の成り立ち、絵本作りの過程、絵本に込めたスミスさんの想いを知ることができました。絵の美しさとストーリーの豊かな表現にすっかり魅了されてしまいました。(東京都/男性)
[月刊クーヨン]25年8月号には、書ききれなかった講演内容を掲載!
クレヨンハウスの育児雑誌[月刊クーヨン]では、書ききれなかった講演内容を掲載しています。シドニー・スミスさんの記事は、2025年8月号(7/3発売)に掲載!あわせてチェックしてくださいね。
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「子どもの本の学校」34期はまだまだ続きます
作家と読者を結ぶ講演会イベント、「子どもの本の学校」34期は、まだまだ続きます!
この出会いが、一生を変えるような忘れられない大切な一冊との出会いになるかもしれません。
どこまでも自由な絵本の世界の魅力を、もっともっと知ることができる講演会イベントです。
ご参加を、お待ちしております!
※本ページに表示されている商品価格等は講演会開催時点のものです。