
カタリーナ・ヴァルクスさんの絵本特集

たのしくて、ちょっとおかしなおはなしの世界に夢中!
物語の名手、カタリーナ・ヴァルクスさんの絵本特集
リゼッテシリーズ ―かわいくってちょっとヘン!―
【最新作】

〇作者紹介
カタリーナ・ヴァルクスさん
オランダ・デビルト生まれ。両親とともにフランスへ渡った後、オランダの大学で学ぶ。
1993年に息子が生まれたことをきっかけに、絵本づくりをはじめる。クスッと笑えて元気が出ることをいちばんに考え、
フランス語とオランダ語で数多くの絵本や児童文学作品を発表。アムステルダム在住。
日本で翻訳された絵本に「リゼッテ」シリーズ、「トトシュ」シリーズ、
『ぼくのたからもの』(以上、クレヨンハウス )がある。
【カタリーナ・ヴァルクスさんより】
リゼッテはわたしにとって思い入れのあるキャラクターです。なぜかはよくわかりませんが、ちょっと自分と似ているのかもしれません。『リゼッテうそをつきにいく』は、この白い小鳥を主人公にしてつくった3冊目の絵本です。
1作目『みどりのくつしたかたいっぽう』が出たのはなんと20年前! クレヨンハウスからも(日本語版が)出版されました。わたしにとってはじめて日本語訳された絵本で、その後すてきな友人となった伏見操さんが翻訳したものです。
さて、この『リゼッテうそをつきにいく』で、リゼッテは、友だちのトカゲのボビと一緒にうそをつきます。それはあそびであり、ちょっと試しにうそをつきにいくのです。何かを隠すためでも、自分をよく見せるためでもない、「うそつきごっこ」です。
* * *
●じつはかなり自伝的です
このお話、じつはかなり自伝的です。わたし自身、子どもの頃はこんなふうにしてよくうそをつきました。家に帰ると、長く退屈な、学校での一日の間に起きたかもしれないすてきなこと、刺激的なことを考え、夕食を食べながら、その話をまるで実際に起こったかのように家族に話すのです。
母は、わたしがつくり話をしているとわかっていたけれど、おもしろがって許してくれました。そうしているうちに、それが習慣になり、思春期になってからは、つくり話をやめるのに苦労したほどです。
●「うそつきごっこ」の顛末は?
そんなわけで、ちいさな鳥のリゼッテが、大きくて、でもたあいもないうそをつくお話を書きたかったのです。もちろん、うそをとがめるためではなく、うそをつく体験、「うそつきごっこ」がどんなふうに広がっていくのかを描いてみたいと思ったのです。
うそは、さらに別のうそを呼び、そのせいでよくコミカルで不条理な状況になるもの。でも、このお話では、登場人物たちは「ごっこあそび」だったはずのうそに、すっかり入り込み、いつの間にか彼らにとっては本当のことになってしまう。子ども時代にこういうことってありますよね。
子どもたちはよく「ごっこあそび」をします。たとえば、「あなたがパパで、わたしがママね」「あなた、馬になって」とか。
このお話では、リゼッテとボビがゾウのポポフに、バカンスに行くと言います。これはまっかなうそです。山なんてどこにもないし、バカンスにいくどころか、家のすぐそばにいるのに。でもそのうち本当に山でバカンスを過ごしている気分になるのです。
ファンタジーが現実を超えたんですね。このお話を読んだ子どもたちも、リゼッテとボビのように、このうそつきごっこに巻き込まれていくでしょう。
●ママに言わせたこと
家に帰ったリゼッテは、ママにその日のことを話します。「山でのバカンス」のことを、今度はうそ偽りなく話します。ママはもちろん、彼女がつくり話をしていると思うのですが、かつてのわたしの母のように笑ってくれます。
最後のシーンで、わたしはママに「うそがじょうずねえ」と、たしなめるように言わせました。
うそつきごっこは魅力的だけれど、幼い子どもたちには、やっぱりうそはうそなんだって、伝えておかなければなりませんよね。

〇翻訳者紹介
ふしみみさをさん
フランス語、英語を中心に、おもに子どもの本の翻訳で活躍。訳書に『うんちっち』(ステファニー・ブレイク/作 あすなろ出版)、『マリーナ』(ルドウィッヒ・ベーメルマンス/作)、『フンコロガシといしころころころころころうみへいく』(クレール・シュヴァルツ/作 以上、クレヨンハウス)など、著書に『ヘビと船長』(ポール・コックス/絵 BL出版)、「日本の神話えほん」シリーズ(ポール・コックス/絵 岩崎書店)などがある。
カタリーナ・ヴァルクスは、わたしが世界でもっとも評価している作家の一人だけれど、今回の新刊もやっぱりやってくれた。
なんとリゼッテは、仲良しのボビを誘って、「とびきり大きな嘘をつきに行く」のだ。
念のために言っておくが、「嘘をついてはいけません」という、モラル的な本ではない。まったくない。どこまでも明るくあっけらかんと、大きな嘘をどんどんついていくのだ。
毎回、「こんなの、見たことない!」という本を作ってくれるカタリーナ。彼女の作品はつねにユーモアとあたたかさに満ちている。心から、「愛してるよ!」と言いたい。